アスパンの恋文2007年02月20日

アスパンの恋文,ヘンリー・ジェイムズ作、行方昭夫訳,1998.5.18.第1刷、赤313-8

 どうも今ひとつ相性の合わない本というのはあるもので、この本も私にとってはそれらしい。
 先が気になるわくわくするようなストーリー展開ではあるのだけれど、読み終わった後に何も残らない。語り手である主人に対しても、また彼と関わる登場人物に対しても、あまり焦点が合わないまま終わってしまったという感じだ。
 初期アメリカの大詩人アスパン(架空の人物らしい)のかつての恋人であり、その書簡を持っているという老婦人から、何とかしてその書簡を手に入れようとするアスパンの伝記作家が、身分を偽って彼女が姪と二人で住む邸宅に下宿人になるのだが……というストーリーの骨格は、手紙が本当にあるのか?本当に老婦人はアスパンと関わりがあったのか?といった謎と絡まって、またちょっとしたコンゲームの趣も見せて、先が気になる面白さがある。だが逆に言えばそれしか私には感じられない物語でもあって、「だから何?」みたいな味気なさがある。
 主人公のエゴと配慮の無さと無垢な探求者としての要素。彼に立ちはだかる奇妙な威厳と卑しさを合わせもつ老婦人。控えめで健気で頼りないが最後に鮮やかな行動を見せる中年婦人の姪。彼らの人間性はどれも面白いし、長所と短所を合わせもつ生きた人間として鮮やかなのだけれど、ディケンズのような強い印象やオースティンのような躍動感がないように思えてしまう。
 恐らく、アメリカ的要素とヨーロッパ的要素の相克と融和という、ジェイムズ生涯のテーマとからめて考えていかないと、この物語はオチがいまいちのコンゲーム小説もどきになってしまう。古典を読む難しさを感じる瞬間である。

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_ アートメイク - 2007年02月22日 00時20分06秒

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