ラッセル 幸福論2007年02月04日

ラッセル 幸福論,安藤貞雄訳,2004.12.15.第20刷(1991.3.18.第1刷),青659-3

・自己にあまり没頭しないこと。
・情念と興奮に支配されるがままにならないこと。
・そして外界に対してなるべく広く、好意的な興味を抱くこと。
 かつてヴィトゲンシュタインの師であった、しかし弟子とは異なり、偉大な中庸精神を持ち合わせていたラッセル。彼の幸福論を箇条書きで要約すれば、そんな感じになる。
 で、この内容は、最近たくさん出版される「自己啓発」とか「幸福追求」とか「精神世界」をテーマにした本の内容と、驚くほど似ている。ラッセルが引き合いに出す、不幸な人間やその社会問題の像は、嫌になるくらい今の日本の閉塞感とそっくりだ。結局のところ、この辺りにまつわる欠乏感に対する処方箋を、現代社会はまだ共有できていないということなんだろう。多くの賢人が書いているにも関わらず、その認識が一般化しないのは、何故なのか。
 まぁきっと、それはあまりに穏やかで、見ようによっては退屈でさえある主張だからだ。ラッセルの主張は、それこそヴィトゲンシュタインのスパイシーで刺激的な哲学に比べると、「ごはんと味噌汁」みたいに普通である。普通さは、哲学においては大きなハンデなのかも知れない。
 ラッセルの幸福論が、万人に有用であるとは思わないけれど、結構役に立つ人は多いような気はする。岩波書店は、これを新装版の単行本にして売り出したらいいんじゃないのかな。若い女性が好むようなイラストと装丁にして。