体内微風2007年08月10日

 前に、友達の男性が、普通のコミックかと思って買ったコミックがボーイズラブ系のもので精神的ダメージを受けたという笑い話をしていた。その時、その場にいたある人が「ボーイズラブ系漫画の見分け方」というのを話してくれて、それは「表紙が男性二人で、しかもそのうちどちらかの目が虚ろで遠くを見ている」というものだったのだが。
 これが私の中で非常に得心がいって、「そうそう!そうだよね!あれは何でだろう!」と大いに盛り上がり大笑いした次第である。

 ところが、その後ふと考えてみると、自分の中でそういう光景というのは、結構覚えがあるような気がしてきたのだ。
 もしも今、傍に好きな人がいて、周りには誰もいなくて、何でも好きなことをしていいよ、と言われたら。私は、後ろからぎゅっと抱きしめてもらって、自分の体の力を抜いてことんと体を預けて、ぼんやりと、空を眺めるのではないかと思う。その目は、絵にしたらちょっと虚ろに見えるかも知れない。あるいは目を閉じて、ぼーっと、体の中を静かに淡緑色の微風がすうっと通って行くのをただ感じる。ただそれだけの、時間。
 そういう光景のイメージは、昔から、本当にずいぶん昔、たぶん十代の頃から、私の中にいつの間にか存在していて、恋愛と呼ばれるものに私が一番求めていたのは、そういう時間だったように思う。
 けれど恐らく、その感覚は、大半の男性には理解しがたいーーというか、意味がわからないもので、何回か経験した派手な恋愛崩壊というやつの根本的なところに、そのすれ違いがあったという可能性も、ないではないだろう。
 もしかしたら、この光景は、私一人のものではなくて結構な数の女性の心に宿っているもので(もちろん全ての女性ではないだろうが)、ひっそりと形を変えて色々なところに描かれているのだろうか。
 あるいはそれも壮大な勘違いで、そんなことに安らぎを覚えるのは、私くらいのものなのかも知れないけれど。