子供2009年03月21日

 豊下楢彦氏の「集団的自衛権とは何か」を読了。非常に良書でした。
http://www.amazon.co.jp/dp/4004310814/

 この著書は、「集団的自衛権は自然権」「日本安保理体制の片務性を是正すべき」「日本は北朝鮮の脅威があるのだから武装しなくてはならない」等々と語られる情緒的な俗論を、極めて丁寧かつ精緻な論理で整理した上で反論をしていて、その点の見事さについては、アマゾンのカスタマーレビューで5つ星というところからもうかがえるかと思います。
 なので、そこについて今更私が語ることは何もないのですが。

 ただ、この本を読んでいて、脈々と流れるこれらの「俗論」というものを見ていて、ふと思ったことがあるのです。
 それは、まるで大好きな親か先生か兄貴分に認めてもらいたくて必死な、小さな子供を見ているかのような光景だな、と。

 日本の国家としての成熟性を認めてもらいたい、世界に貢献していると認めてもらいたい、湾岸戦争で多額の出費をしたのに評価されなかったのが巨大なトラウマ、等々の光景は、誰か自分が大好きなえらい人に「よくやったね、えらいねぇ」と言ってもらわなければ安心することも喜ぶこともできない、幼い子供が泣いているところのように見えるのです。
 国家としての日本のメンタリティのどこかに、「自分は、一人前の立派な存在ではなくて、そんな小さくてつまらない自分を誰か立派な国が認めてくれたらアイデンティティが成立できる」という部分があるのでしょうか。
 そして今の日本にとって、そんなアイデンティティを担保してくれる「大好きな立派な親」はアメリカということのようです。
 けれど、アメリカはたぶん、日本に対して「成長を認めてあげなくてはならない子供」のような感覚は全くなく。
 アメリカにとって日本は、アジアに影響力を及ぼすために重要な軍事拠点であり、常にアメリカの政治的判断にイエスと言い続けてくれる裕福な犬であり、それは子分をかわいがる親分ですらない、恐らく「非常に重要な道具」でしかないのでしょう。

 日本は、そんな風にしか自分を見ていないアメリカが、それでも「認めて」くれることをひたすらに乞い願っているように思えます。
 アメリカが、日本を「一人前の国家」だと認めてさえくれるのなら、どんな犠牲も惜しくはないと。あるいは、アメリカが日本を認めてさえくれれば、犠牲を払う必要もなくなるのだと。

 安保理の片務性や、国家の成熟の証としての核武装、押しつけ憲法からの脱却等々の(およそ正確な歴史・政治・軍事状況の認識があるとは思えないエモーショナルな)発言のあれこれは、お父さんに認めてもらいたくて必死にお父さんのご機嫌をとる子供の叫びなのだと思った瞬間に、私にとっては、何となく腑に落ちたのです。
 そしてそうであれば、日本がアメリカの冷徹な日本認識を、どこか他人事に思っているというか、理解していない、考えてもいないように見えるのも当然かも知れません。
 認めてもらえないと思い込んでいる子供が、お父さんの真意も、大人の世界のあれこれの思惑も、目的も、本当の意味では理解していない、というよりもほとんど思考の埒外であって考えもしていないように。
 そしてたぶん、そんな子供は、「お前は親の言うことなら何でもきくのか」と問われたら、顔を真っ赤にさせて反論するのに違いないのです。
「そうじゃない、お父さんと対等に話すために自分は大人にならなくてはならないのだ」と。
 けれどその「大人」の定義が結局は、「お父さんが自分を対等に扱ってくれる(ように思える)」ことであるのですから、求めるものはどこかトートロジーにならざるをえず、そしてそもそも「大人に認められるのが大人」という発想自体が子供の発想なのだ、ということに気づいていないのです。

「えらい大国に認めてもらわないと自分の国がアイデンティティがあると思えない」
「えらい大国が認めてさえくれれば、その大国が大間違いをしようと、自分を踏みつけにしようと、自分を忘れ去っていようと、関係なく自分のアイデンティティが認められたと信じられる」
という感覚が。
 もしも本当に日本の主立った政治家や、日本国民の精神的基調にあるのだとしたら、そしてそこから脱却できないのだとしたら、日本が成熟も国家的アイデンティティもへったくれも獲得できないのは火を見るよりも明らかのように思えるのですが……。
 でもまぁそれはきっと、私の考え過ぎなのだと、私は思いたいのですけれど。

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