茶の本2007年01月16日

茶の本,岡倉覚三著,村岡博訳,1981.9.10.第61刷(1929.3.10.第1刷 1961.6.5.第38刷改版),青33-115-1


タイトルに茶とはあるけれど、茶道や茶芸に関する本ではなくて、芸術論や禅論に近い。
この本はアメリカで、東洋文化の啓蒙書として書かれた。それを考えれば、少々勇み足に見える文章も納得がいく。
不完全の中に美を見出し、己を主張するのではなく虚に徹することによって万物と呼応するという発想が、果たして茶道や東洋独自のものなのか、私にはよくわからない。ここに書かれている茶道は、茶道界の見解ではない、岡倉の「マイ茶道精神」という気もする。
この本の面白さは、結局のところ茶道の真髄がどうということではなく、あちこちの冴えた岡倉の芸術認識なのだろう。「われわれは傑作によって存するごとく、傑作はわれわれによって存する」「翻訳は、よくいったところで錦の裏を見るに過ぎぬ。糸は皆あるが色彩は見られない」といった、説明の困難な真理をすぱっと短文で切り取ってくれる様には、感嘆するばかりである。